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東京地方裁判所 昭和35年(ヨ)2118号 判決

申請人 野中稜男

被申請人 鐘淵ディゼル工業株式会社

主文

被申請人は、申請人に対し昭和三五年四月一日以降本案判決確定の日に至るまで毎月二五日限り金一九、七〇〇円ずつを支払え。

申請人のその余の申請を却下する。

申請費用は被申請人の負担とする。

(注、無保証)

事実

第一当事者の求める裁判

申請代理人は、「申請人が被申請人に対して雇傭契約上の権利を有する地位を仮に定める。被申請人は申請人に対し昭和三五年四月一日以降本案判決確定に至るまで毎月二五日限り金一九、七〇〇円ずつを支払え。申請費用は被申請人の負担とする。」との判決を求め、被申請代理人は申請却下の判決を求めた。

第二申請の理由

一  申請人は昭和二五年六月被申請会社に入社し、設計課員、工場長付、工務課生産計画係等を経て、同三四年一二月から同課外註係の職務に従事していたところ、被申請会社は、昭和三五年三月二八日申請人に対し、申請人が被申請会社従業員をもつて組織する鐘淵デイゼル工業労働組合(以下「組合」と略称する)の役員在任中その地位を利用して、組合の公金を横領し、組合から除名処分を受けたこと、および申請人が被申請会社付近の商人に個人的な負債があり、その苦情が被申請会社に持ち込まれていることは、被申請会社の就業規則第五九条第四号の「不正不義の行為をなし当社従業員として体面を汚したとき」に該当するとして、懲戒解雇する旨の意思表示をした。

二  しかしながら本件解雇の意思表示は、次の理由により無効である。

1  本件解雇は、労働組合法第七条第一号にいう不当労働行為である。

申請人は昭和二六年一二月組合の執行委員に選出されて以来、昭和三五年二月迄の間、別紙記載のとおり組合役員につき、その間活発に組合活動を行つた。特に昭和二七、二八、二九の各年に組合は賃上げを要求し、それぞれ一月ないし一月半にわたる無期限ストライキを行つたが、これらの争議における実際上の最高指導者は申請人であつた。また、昭和三三年夏に夏季手当問題でストライキを行つた際も、申請人は職場委員会議長として争議指導を行つた。昭和三四年六月から八月にかけて行つた一時金支給斗争においても、申請人は指導的活動をした。

被申請会社は、前記のような申請人の組合活動を嫌悪し、これを企業から排除することを目的として、申請人を解雇したものであり、その主張する解雇理由は単に本件解雇が不当労働行為であることを隠蔽するためのこじつけに過ぎない。

2  仮に本件解雇が不当労働行為でないとしても、本件解雇は解雇権の濫用である。

被申請会社が本件解雇の理由とする事実のうち、申請人が組合の公金を横領したとの点は、申請人を含む組合執行部が組合の斗争資金中から個人貸付を行つたため、執行委員の一人として組合内部の規律違反に問われたにすぎない。この問題は組合内部において処理されるべきもので、被申請会社がこれをとらえて懲戒処分に付すべき性質のものではなく、従つて就業規則第五九条第四号に該当しない。また、申請人が被申請会社附近の商人に負債があるとの点は、右負債のあることは事実であるが、被申請会社に苦情が持込まれていたことはない。右は被申請会社の業務とは何ら関係のないことであるから、就業規則第五九条第四号に該当しない。

3  以上の次第で、本件解雇は、懲戒解雇に該る理由が何ら存在しないのになされたもので、被申請会社の解雇権の濫用として、無効である。

三  必要性

以上のとおり被申請会社のした申請人に対する本件解雇の意思表示は無効であり、被申請会社と申請人との間には雇傭関係が継続しているにかかわらず、被申請会社は申請人をその従業員として取扱わず、本件解雇の意思表示後申請人の就労を拒否している。申請人は解雇の意思表示がなされた当時月額一九、七〇〇円の賃金(毎月二五日支払)を取得していたから、少くともこれと同額の賃金債権を有するものであるところ、申請人は労働者で賃金のみにより生活を維持しているものであるから、その支払いを受けなければ生活に窮し著しい損害を被ることになる。

よつて申請の趣旨のとおり仮処分命令を求める。

第三申請の理由に対する被申請会社の答弁および主張

一  答弁

1  申請の理由一の事実は認める。

2  同二の1の事実に対する認否は次のとおりである。

申請人が昭和二六年一二月から昭和三五年二月までの間その主張のとおり組合役員に就任したこと、昭和二七、二八、二九の各年に組合が賃上げを要求し、それぞれ一月ないし一月半にわたるストライキを行つたこと、昭和三三年夏、夏季手当問題でストライキが行われたことはいずれも認める。その余の事実は否認する。

3  同三の事実は否認する。ただし、被申請会社が申請人に対し本件解雇の意思表示をした当時の申請人の賃金が月額一九、七〇〇円であつたこと、および賃金支払日が毎月二五日であつたことは認める。

二  被申請会社の主張

1  被申請会社が申請人を懲戒解雇したのは、申請人に就業規則第五九条第四号の「不正不義の行為をなし当社従業員としての体面を汚す行為」があつたからである。すなわち、申請人は組合の役員在任中、執行委員長中村道義、会計恒松昭夫らとともに、組合の公金を横領した。組合は、右事実が発覚するや、昭和三五年二月中旬から同年三月八日頃まで連日委員会または組合大会を開いた結果、右申請人ら三名を除名したところ、中村および恒松両名はその後引責退職したのに、申請人は右公金については、一時借用したものであると強弁し何ら改悛するところがない。更に申請人は、被申請会社付近の商人に対し負債があり、返済しないため、商人から被申請会社にその苦情が持込まれている。被申請会社は、申請人に対し円満に退職するよう勧告したのであるが、申請人はこれに応じないばかりでなく全く反省の色がない。以上の申請人の行為は、被申請会社の就業規則第五九条第四号に該当し、懲戒解雇に値する。

そこで被申請会社は組合代表者も加え懲戒委員会を開催して審議した結果、全員賛成で申請人を懲戒解雇することに決定した。なお、右決定は、向島労働基準監督署においても正当である、とされた。

以上のとおりで、本件解雇は何ら申請人の組合活動を抑圧する意図の下になした不当労働行為ではなく、また、被申請会社が解雇権を濫用してなしたものでもない。したがつて、申請人の本件申請は全く理由がない。

2  仮に懲戒解雇に該当する理由がないとしても、被申請会社は申請人に対し昭和三五年三月二八日前記解雇の意思表示をするにあたり、解雇予告手当として一ケ月分の給料金一九、七〇〇円を支払い、申請人はこれを受領しているのであるから、右解雇は就業規則第六五条第三号による通常解雇としての意思表示を含むものである。すなわち、前記のとおり申請人は組合の公金を横領し、組合から除名されたのであつて、かかる非行者を引続き雇傭することは被申請会社としてはきわめて不安であるのみならず、唯一人の非組合員たる従業員を引続き雇傭するときは、組合との関係上とうてい事業の円満なる遂行を期待することができない。よつて被申請会社は、就業規則第六五条第三号に規定する、「其の他前二号に準ずる程度の已むを得ない理由がある」ものとして申請人を通常解雇したものである。

3  更に右主張が理由がないとしても、被申請会社は昭和三五年一一月一六日の本訴口頭弁論期日に申請人に対し、右と同一の理由で、就業規則第六五条第三号による通常解雇の意思表示をした。

よつて申請人の本件申請は理由がない。

第四被申請会社の主張に対する申請人の答弁および反論

第三記載の被申請会社の主張事実中、申請人が被申請会社から昭和三五年三月二八日金一九、七〇〇円を受領したことは認めるが、その余の事実は争う。被申請会社が通常解雇の理由として主張する事実は就業規則第六五条第三号には該当しない。仮に該当するとしても、就業規則第六五条には、被申請会社が同条各号による通常解雇を行うには、組合の同意を得ることを要する旨が定められているのに、被申請会社は申請人に対する右解雇につき組合の同意を得ていないから、右解雇は無効である。

第五申請人の反論に対する被申請会社の反駁

就業規則第六五条による通常解雇については、同条に「組合の同意を要する」旨定められているが、前記のとおり申請人は組合から除名せられ組合員ではないので、申請人を通常解雇するのに組合の同意を得る必要はない。仮にそれが必要であるとしても、既に懲戒委員会において懲戒解雇するにつき組合の同意を得ているのであるから、右同意をもつて通常解雇についても同意がなされたとみるべきである。

第六疎明〈省略〉

理由

一  申請人が昭和二五年六月被申請会社に入社し、申請人主張の職務を経て、昭和三四年一二月から工務課外注係として勤務していたところ、昭和三五年三月二八日申請人主張のような理由で懲戒解雇する旨の意思表示を受けたことは、当事者間に争いがない。

二  申請人はまず本件解雇は不当労働行為であると主張するので、以下に検討する。

申請人が昭和二六年一二月から昭和三五年二月まで別紙記載のとおり組合役員に就任したことは当事者間に争いがなく、当裁判所が真正に成立したものと認める甲第五号証および証人中村道義の証言によれば、申請人が昭和二八年頃の部分ストに際し、あるいは昭和三四年における賃上げ、夏期一時金、越年資金等の要求闘争に当りある程度組合活動を行つたことは認められるけれども、それ以上に申請人がその主張のような組合活動を行つたとの事実を認めるべき疎明はない。従つて、申請人が右認定程度の組合活動をしたことから、被申請人がこれを嫌悪して申請人を本件懲戒解雇にしたものと認めることは困難であり、他に被申請会社が申請人の組合活動を嫌悪して本件懲戒解雇をするに至つたものと認めるべき疎明資料もない。

かえつて、成立に争いのない乙第五、第六、第一一、第一三号証、第一八号証の一、二、証人高柳皎の証言により真正に成立したと認められる乙第一ないし第四号証、第七、第八号証、第一〇号証の一、二、第一五、第二二号証、証人山口成元の証言により真正に成立したと認められる乙第一七号証、証人中山益雄の証言により成立の認められる乙第一九号証、第二三号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第三号証の一ないし一三、同第六号証の一、二ならびに証人中村道義、山口成元、田村清、中山益雄および高柳皎の各証言に、当事者間に争のない事実を総合すると、次の事実が一応認められる。すなわち、申請人は、昭和三四年三月執行委員会の副執行委員長に選任されたが、翌三五年二月執行委員会において決定した賃上げ案が委員会(組合大会に次ぐ決議機関で、各職場から選出された一一名の委員で構成されるもの。以下仮に職場委員会という。)の採用するところとならなかつたため、同月一〇日他の執行委員とともに辞職した。そこで、次期執行委員会が構成されるまで職場委員会が執行委員会の職務を代行することになり事務引継ぎをしたところ、組合資金は現金がわずかしかなかつたので、二月一八日会計監査の山口成元、柏原茂夫の両名が監査に当つた結果、組合資金は通常経費、闘争資金の双方を合わせて相当の額が不足していることが判明した。山口らが申請人ら前執行委員にその不足の理由を問いただしたのに対し、申請人らは、その不足は、副執行委員長の申請人が合計金五五、〇〇〇円、執行委員長の中村道義が合計金三四、〇〇〇円、執行委員兼会計の恒松昭夫が合計金二一七、〇〇〇円をそれぞれ借用したことに因るものである旨釈明し、申請人は山口らに対し自己の分金五五、〇〇〇円につき乙第一八号証の一、二の借用証を提出した。山口らは直ちに職場委員会に対し、右監査の経過を報告した。

そこで職場委員会はその対策につき協議を重ね、申請人とも話合つたが、結局その返済方法について両者間に意見の一致を見るに至らなかつた。もともと組合資金中闘争資金は、組合員に対しその生活資金としてその貸付けが行われており、一人当り金一、〇〇〇円以内、返済期限一ケ月以内の貸付けは、生活部長(会計兼務)の権限においてすることができたのであるが、それ以外の貸付けは職場委員会の承認を必要とする定めであつたところ、申請人らの借用については右の承認がなされていないことが明らかであつたので、職場委員会は、その使途を究明することなく、申請人らが組合執行機関の構成員たる地位にありながら、その地位を利用し、貸付け手続を経ないでほしいままに組合資金を借用したことは、組合資金の乱用であつて、組合員全員に不信の念を抱かせ、組合組織に動搖を与え、組合運営に重大な影響を生ぜしめたものであり、従つて組合規約にいわゆる組合の名誉を棄損したことに該当するとし、申請人らを組合から除名すべき旨の職場委員会案を決定し、これを昭和三五年三月八日の臨時組合大会にはかつたところ、同案は過半数をもつて可決された。なお申請人は当時清水正一その他の被申請会社附近の商人数名に対し飲食代金未払債務があり、右商人らのうち坂村そば屋(清水正一)は申請人の支払につき不安をいだいて、被申請会社に申請人の様子を問合せたことがあつた。組合から申請人ら除名の通知を受けた被申請会社は、同月一〇日申請人に対し就業禁止を命ずるとともに、翌一一日退職を勧告したが、申請人はこれに応じなかつた。そこで被申請会社は、同月一八日被申請会社及び組合代表によつて構成される懲戒委員会を開催し、組合側委員の賛成をも得て、申請人を懲戒解雇することに決定し、同月二八日申請人に対しその主張のような理由で本件懲戒解雇の意思表示をした。以上の事実が認められる。

以上の次第であるから、本件解雇は、被申請会社が申請人の組合活動を嫌悪してしたものでなく、前記認定のように申請人が、組合資金を乱用したとして組合から除名され、また被申請会社附近の商人数名に対し負債があつたことが被申請会社の就業規則第五九条第四号に該当するものとして、したものであることが明らかであるから、本件解雇を不当労働行為であるとする申請人の主張は理由がない。

三  次に申請人は、本件解雇は被申請会社の解雇権の濫用であると主張するので、以下に検討する。

被申請会社の就業規則(乙第一三号証)第五九条第四号に規定する解雇事由である、「不正不義の行為をなし当社従業員として体面を汚した時」とは、社会的にみて、被申請会社の従業員が不正不義の行為をなしてその体面を汚し、その結果被申請会社の企業の秩序を乱し、その経営に支障を与え又はその虞があるときと解するのが相当である。けだし、たとい従業員にその体面を汚すような不正不義の行為があつても、被申請会社の企業に影響を及ぼさない限り、その従業員を企業から排除する必要がないからである。

ところで、申請人が組合の副執行委員長在任中、その地位を利用し、組合の定める貸付け手続を経ないで、組合資金から合計金五五、〇〇〇円を借受け、そのため組合から除名されたことは既に認定したとおりである。申請人のこのような行為は、組合の役員たる者が組合の資金を乱用したものとして、組合から当然非難されるべき行為であり、従つて社会的にみて、申請人の体面を汚すような不正不義の行為であると言えないことはないが、その結果まだ被申請会社の企業の秩序を乱し、その経営に支障を与えたものと認めることができないことはもちろん、その虞があつたものと認めることもできない。したがつて、申請人の右行為が被申請会社の就業規則第五九条第四号に該当するものとすることはできない。なお、申請人が組合から除名されたこと自体が直ちに就業規則の右規定に該当しないことは言うまでもない。次に申請人が被申請会社附近の商人数名に対し飲食代金未払債務があり、その商人らのうちの一名から被申請会社に対し申請人の様子を問合せたことがあつたことは前記のとおりであるが、申請人のこのような行為が就業規則の右規定に該当しないことも、既に述べたところにより、明らかである。

ところで、使用者が就業規則により解雇事由を規定する場合は、これに該当する以上従業員を解雇することがある旨を明確にして、企業の秩序を維持するとともに、特別事情がない限り、これに該当しないときは従業員を解雇しない旨を明定して、従業員の雇傭を保障し、よつて企業の円満な運営を図ろうとするものということができる。そして、使用者がこの就業規則による解雇事由の限定的規定に違反して従業員を解雇するときは、わが国の労働経済の現状の下では、一般に解雇が直ちに労働者の生活に著しい困苦を与えるものであることにかんがみ、その解雇は、労使間の信義公平の原則に反し、解雇権の濫用として、無効であると解すべきである。本件の場合申請人の前記行為は被申請会社の就業規則第五九条第四号の規定に該当せず、他に特別の事情の主張立証のない本件において、被申請会社がこれに該当するものとした本件解雇の意思表示は無効であると言わなければならない。

四  被申請会社は、昭和三五年三月二八日申請人に対してした本件解雇の意思表示は就業規則第六五条第三号による通常解雇の意思表示を含むから、これにより本件雇傭関係は消滅した旨を主張する。

申請人が昭和三五年三月二八日被申請会社から解雇予告手当として支給された金員を受領したことは当事者間に争がないが、このことのみでは、必ずしも被申請会社が同日申請人に対してした本件解雇の意思表示が被申請会社の就業規則第六五条第三号による通常解雇の事由をも理由にしたものであると認めることはできない。他に本件解雇の意思表示が右のような通常解雇の意思表示を含むものと認めるべき疎明資料はないから、被申請会社の右主張は理由がない。

五  被申請会社は、申請人に対し本訴において就業規則第六五条第三号による通常解雇の意思表示をしたと主張する。

被申請会社の就業規則(乙第一三号証)第六五条は、同条所定の「各号の一つに該当する時は、組合の同意を得た上三十日前に予告するか又は三十日分の給与を支給して解雇する」ものとし、その第一号には、「精神若しくは身体に故障あるか、又は虚弱傷病等のため業務に堪えられないと認められる時」、第二号には、「已むを得ない事業上の都合による時」、第三号には、「その他前二号に準ずる程度の已むを得ない理由がある時」、と規定している。これらの規定を総合して考えると、就業規則第六五条第三号は、従業員側の都合によると、被申請会社側の都合によるとを問わず、同条第一、二号の事由(従業員の身体、精神上の故障等又は被申請会社の企業整備等)に準ずるような、被申請会社の企業経営の必要上やむを得ない解雇の事由があるときに、従業員を解雇することができる旨を規定したものと解するのが相当である。ところで、申請人は組合の役員でありながら組合の資金を乱用し、そのため組合から除名されたものではあるが、申請人のこのような行為が被申請会社の企業の秩序を乱し、その経営に支障を与え、又はその虞があるものと認められないことは既に述べたとおりである。このような申請人を引続き雇傭することが被申請会社にとつて単に「不安」であるということだけでは、被申請会社の企業経営の必要上申請人を解雇しなければならないやむを得ない事由とはならない。特に申請人は当時被申請会社の工務課外注係であつたのであつて、直接被申請会社の経理事務を担当していた者とは認められないのであるから、なお更である。次に、被申請会社では従業員は必ず組合員でなければならないものと認め得べき疎明資料もなく、また被申請会社が組合員でない従業員を雇傭するために、組合との関係上被申請会社の事業の円満な遂行ができないものと認めるべき疎明資料もない。従つて、申請人が組合を除名された結果被申請会社において唯一人の非組合員となるとしても、そのことは、前記のやむを得ない解雇の事由とはならない。

してみると、被申請会社の主張するような事由は就業規則第六五条第三号に該当しないから、本訴における被申請会社の申請人に対する通常解雇の意思表示は、既に述べた理由と同一の理由により、解雇権の濫用として、無効であると言う外はない。

六  以上のとおりとすれば、その余の点につき判断するまでもなく、申請人と被申請会社との間には依然雇傭関係が存続しているというべきであり、また弁論の全趣旨によれば、申請人は被申請会社から支給される賃金によつて生活を維持していたものであるが、本件解雇以降その賃金の支給を絶たれていることが明らかであるから、とくに反対事実の疎明がない限り、申請人は賃金請求権につき本案訴訟による救済を受けるまでの間、生活に窮し、回復し難い損害を被るおそれがあるものと一応認めるのが相当である。しかして本件解雇の意思表示がなされた昭和三五年三月当時申請人が一ケ月分の賃金として金一九、七〇〇円の支給を受けていたことおよび被申請会社における賃金支払日が毎月二五日であることはいずれも当事者間に争いがないから、主文第一項記載の仮処分命令を発するのを相当と認める。なお申請人はその外に「申請人が被申請人に対して雇傭契約上の権利を有する地位を仮に定める。」との任意の履行に期待する仮処分命令を求めるが、賃金請求権について右のように断行の仮処分を認める以上、重ねてかかる仮処分をなすことは無意味であるし、また賃金請求権以外に保全されるべき雇傭契約上の権利が存在することについてはなんら申請人において主張しないから、右申請部分は排斥を免れない。

よつて申請費用の負担につき民事訴訟法第九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 吉田豊 吉田良正 北川弘治)

(別紙)

一、昭和二六年一二月 執行委員    一、同年   八月 執行委員

一、昭和二七年 二月 副執行委員長  一、昭和三一年二月 執行委員

一、同年    八月 執行委員    一、同年   八月 執行委員

一、昭和二八年 二月 副執行委員長  一、昭和三二年二月 執行委員

一、同年    八月 執行委員    一、昭和三三年二月 第三区職場委員

一、昭和二九年 二月 副執行委員長  一、同年   九月 右委員退任

一、同年    八月 執行委員    一、昭和三四年三月 副執行委員長

一、昭和三〇年 二月 執行委員    一、昭和三五年二月 右副執行委員長退任

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